「パヴァーヌ」
あらすじ ネタバレあり

「すべての愛は幻想だ。唯一無二だという幻想。そして永遠だという幻想。」
ギョンロクの両親は愛し合って結婚したのだが、父は、俳優として芸能人としてスターになったとたん妻とギョンロクを捨て、資産家令嬢との結婚を発表した。
ギョンロクは、父に捨てられた母を気の毒に思いながら育ってきた。
「母さん、死のうなんて考えるな。でも僕のために生きるな。僕の存在が父さんがしたクソになるから。」
ギョンロクはユートピア百貨店の地下駐車場のアルバイト。
客からの理不尽なクレームや暴言に耐える仕事である。
同じデヴィッド・ボウイのTシャツを着る先輩のヨハンは、無感情・無表情のギョンロクを気にかけ、何かと構ってくる。
ギョンロクはヨハンからスケボーを貸してもらい、地下駐車場内を縦横無尽に滑る。
地下倉庫を通った時、真っ暗な中でミジョンと出会った。
地下倉庫勤務の正社員ミジョンは、ゾッとさせるオーラを持っていることから”恐竜”と呼ばれている。
採用試験ではトップだったが、外見が見苦しいという理由で華やかな売り場からはじかれ、地下倉庫へと追いやられてしまったというのだ。
ギョンロクは、それからミジョンが気になるようになり、何かとその姿を目で追うようになる。
ヨハンはそれに気づき、「あの子が好きなのか?」とからかう。
ギョンロクはその興味の理由を「好きなのではなく、かわいそう」だと言った。
ヨハンは「安っぽい親切、同情、ヒューマニズムをみだりに刺してはダメだ。生きてるだけで傷だらけの子にとって、最悪なのは同情されることだ。愛なしに近づくな。」と注意された。
それでもギョンロクはミジョンへの興味が尽きず、彼女の仕事を手伝う。
ピアノの演奏を気持ちよさそうに見ているミジョンに見入り、話しかけ、”パヴァーヌ”というクラシック用語を教わる。
ギョンロクは自己紹介した。
しかしミジョンは、ギョンロクと一緒にいる所を同僚の女子社員に見つかり、からかわれてしまう。
その同僚の女子社員たちというのは、名品館のハイブランド店勤務。
外見も美しく、高級で華やかな職場に身を置いている。
その中の1人のセラは、ギョンロクにアプローチしてくる。
ギョンロクは興味がない様子。
ギョンロクはミジョンから教わったクラシックやラジオを聴いて、気分が良くなり家で1人ダンス。
翌日
いつものように1人ぼっちでお手製のお弁当を食べるミジョン。
ギョンロクは同じテーブルに座り、ミジョンのお弁当について質問しまくる。
みんなの注目が集まってしまい、ミジョンは逃げるように立ち去った。
なんだか不愉快そうなセラ。
ギョンロクは、退勤後はよくヨハンと一緒に”ケンタッキーホープ”で酒を飲む。
今日もヨハンと飲むために店で待っていた。
しばらくするとヨハンがやって来たのだが、なんとミジョンを連れてきた。
緊張の中、ギョンロクとミジョンは2人きりでお話する。
ギョンロクは「オーロラを見にアイスランドに行きたい」とか「代わり映えのない今のようなバイト生活を続けていいものか」とか「やりたかった現代舞踊もうまくいかずに諦めた」とか「富や名声は求めておらず、ただ普通に生きたい」とか自分の話をした。
ミジョンはすべて聞いた後、
「今は馬から下りているんだと考えたらいい。インディアンたちは馬で旅をする時、しばし馬を下りて来た道を振り返る。ゆっくり歩く魂がついて来られるように待っている。そして、魂が追いついたと感じたらまた走り出す。心残りがあるならやるべき。イヤなことはしないで。それから、世の中のスピードに合わせず、自分のペースで生きていけばいい。」
と穏やかに答えた。
ギョンロクだけでなく、聞いていたヨハンや店主も感心した。
翌日
ミンジョンは、いつもと同じ日常だが、ギョンロクとの触れ合いによって明るい気分になるのだが、セラと顔を合わせて我に返る。
雨の中を傘も差さずに歩くミジョン。
ギョンロクは追いかけて相合い傘。
ミジョンは傘を盗まれ、でも、そんなことは慣れっこだと言う。
人と向き合うより雨と向き合う方が簡単だし、諦めるほうが楽だと。
ギョンロクは、ミジョンをレコード屋へ連れて行った。
ロックが大好きなギョンロクは、早口でウンチクを語る。
知識は豊富だが、楽器はまったくダメなギョンロク。
ミジョンは「ダンスは上手なのに…」と言う。
実は少し前に、駐車場で踊るギョンロクを見かけていた。
「素質があるから諦めないで」と言うミンジョン。
1枚のレコードを一緒に視聴したり、楽しい時間を過ごした。
ギョンロクはミジョンに電話番号を聞いたが、ミジョンは携帯電話を持っていなかった。
ギョンロクはミジョンの手の傷のために絆創膏をあげた。
ミジョンは、ギョンロクの優しさにどう応えていいのか分からずに戸惑う。
ギョンロクは「僕にも優しくして。それでいい。」と言った。
翌日
ミンジョンは、ギョンロクにお弁当箱いっぱいのプチトマトを差し入れした。
ギョンロクは、ヨハンのサポートを得て、携帯のないミンジョンに、仕事で使うトランシーバーを渡した。
ギョンロクは仕事の合間にトランシーバーでミンジョンを呼び出し、屋上へ連れて行った。
いつも地下で働いている2人にとって、屋上は特別な場所だ。
深呼吸して空を見上げ、虹に感動した。
セラはそんな2人を見かけ、食事に誘った。
名品館の華やかな同僚たちとヨハンとギョンロクとミジョン。
同僚の1人はミンギョンに対して露骨に嫌な顔をしている。
ミジョンはずっとうつむいている。
ギョンロクは「好きな人はいるのか?どんな人なのか?」と質問攻めにあい、「きれいで飾らない人。他のことは違う。知りたくなる。その人の前だと自然体でいられる。無口な僕がお喋りになる。大した人間じゃないが、まあまあな人間に思えてくる。だから好きです。」と答えた。
食べ物をかき込み、むせるミンジョン。
ヨハンは空気を読み、それ以上喋らせないように、ギョンロクにキスをして付き合ってることにして誤魔化した。
驚く一同。
口をすすぐギョンロク。
食事会の解散後、ギョンロクは、足早に帰ろうとするミンジョンを追いかける。
動揺して少し怒っているミンジョンに「アイムソーリー」と軽く謝るギョンロク。
何も悪いことをしてないんだからうつむかずに胸を張ってと言う。
翌日
ミンジョンは出勤しなかった。
心配でたまらないギョンロク。
その夜、ギョンロクの携帯にミンジョンから電話が。
公衆電話からで、今日は用事があって実家に帰っていた。
電話の向こうでギョンロクが泣いているようなので、ミンジョンはすぐに電話を切ってギョンロクの元に向かった。
ダッシュでやって来たミンジョンを笑顔で迎えるギョンロク。
2人はコンビニの前で食べたり飲んだり踊ったり、たくさん笑って楽しい時間を過ごした。
翌日
ギョンロクはトランシーバーを使ってミジョンに告白した。
ミンジョンは、「私も好きです」と答えた。
しかし、そのトランシーバーの会話は、他のスタッフたちにも聞こえてしまっていた。
2人の関係はすぐに広まり、冷やかしの的になってしまった。
ヨハンは「チャンネルを変えろと言っただろ!」と怒るが、同時に「みんな羨ましいだけ」と励ます。
おもしろくないセラは、ミンジョンにつっかかる。
ミンジョンはため息を一つついた後、
「自分は特別だと勘違いするな」と初めて言い返した。
退勤後、一緒に帰るギョンロクとミンジョン。
ギョンロクはトランシーバーのチャンネルを変えるのを忘れて、こんな騒動になってしまったことに落ち込んで平謝り。
ミンジョンは、母がおらず、病気の父と弟妹がいる。
借金もあり、督促電話が絶えないので携帯を持たない。
ミンジョンはそんな境遇を打ち明け、それでも好きかと聞く。
ギョンロクは「はい」と即答した。
2人はその後公園に行き、ガチのバドミントンで汗を流して笑い合った。
ヨハンはケンタッキーホープで店長とお喋りをしていた。
「シンデレラの本当の結末を知ってる?シンデレラが子供を生むと、王子は新しい女の元へ。捨てられたシンデレラは子育てしないと。やたら味にうるさい子で、ママのキムチしか食べない。だから、その日もキムチを作ろうと買い込んだ大根、白菜、ネギを冷蔵庫にしまい…自殺した。ところが妙なことに、子供は涙一つこぼさない。葬式を終えて変えると、当然ママはいない。あるのは、冷蔵庫に大根、白菜、ネギ。ママが買ってくれた物を全部捨てたところでくらい夜の訪れ。完全なる闇だ。でも光が1つ。冷蔵庫の明かりをずっと見ているとようやく涙が溢れ出す。」
小説を書きたくて、事あるごとにノートに何かを書いているヨハン。
今は、”ハッピーエンドはない。それにも関わらず…”と書き綴った。
どんな小説を書いてるのかと店長に聞かれ、
「若者たちの青春物語」と答えた。
ギョンロクは舞踊系術科を受けるため、練習を始める。
ミンジョンはギョンロクのために青いセーターを編む。
2人はデートを重ね、絆を深めていくがキスはまだおあずけ。
ヨハンの誕生日。
ヨハンは今日もケンタッキーホープで店長とお喋り。
「恋愛も結婚も若い頃に全部やった。とっくにバツイチだよ。申し分ない相手だったけど、幸せな暮らしが性に合わなくてね。泥沼離婚後、父が再婚しろと。見合いの席に偽の恋人(ミンジョン)を同伴した。ところがその子は謝礼を受け取らず、哀れみの目で俺を見つめた。死ぬほど恥ずかしかった。そのうち、ある男(ギョンロク)が現れて、その子を好きになった。ふざけてるのかと思いきや、ヤツは本気だった。片や俺は、愛されたことも、愛したこともない。”失敗作だ””クソだ”そう思ってる。全部ウソだけどね。」
すると店内の電気が消える。
ケーキを持ったギョンロクとミジョンが入って来て、ハッピーバースデーを歌う。
ヨハンはグッと来て、しばし火のついたロウソクを見つめる。
そしてフーっと吹き消す。
3人はお酒を飲んで、それぞれの夢を語り合った。
たくさん稼ぎ、小説家になり、40歳になったらロックバンドで全国ツアーしたいとヨハン。
小粋なおばあさんになって、素朴ではあるがまったりと暮らしたいとミンジョン。
ミンジョンと一緒にアイスランドに行きたいとギョンロク。
ギョンロクはダンスの学校に合格した。
頻繁に会えなくなると寂しがるヨハン。
「俺たちが過ごした時間を絶対に忘れるな。俺たちの青春は永遠だ。」と映画のセリフに重ね合わせてギョンロクの旅立ちを祝福した。
ヨハンはユートピア百貨店会長の愛人の息子だった。
親族から、「なぜまた来たの!?金はいくらでもやりから韓国から出て行け!母親の敵討ち?」と凄まれる。
ヨハンはその後ギョンロクに電話をかけるが、新しい学校生活で忙しく出られなかった。
ヨハンは仕方なく、手当たり次第に友人に電話をかける。
中国語や日本語。
愛人の息子であり、韓国を追い出されたヨハンが、これまであちこちで生きてきたことが分かる。
しかし、誰一人取り合ってくれなかった。
ケンタッキーホープの店長に「飲もうよ」とおどけて見せるが、準備に忙しい店長に「もう遅いから帰れ」と言われてしまう。
ヨハンはその後、自殺未遂を起こす。
冷蔵庫の明かりの前で、素っ裸で倒れている。
翌日
ユートピア百貨店の従業員たちの間に、ヨハンのことが知れ渡り、心無い噂話が飛び交う。
「愛人の息子だった」
「目立とうとして自殺未遂をした」
「これが3度目」
「サイコ野郎」
「クスリでイカれた」
「飛び降り?リスカ?賭ける?」
ギョンロクとミンジョンは、ヨハンが入院する病院へ。
人懐っこく明るかったヨハンの面影はいっさいなく、生きているのか死んでいるのか、抜け殻のようになったヨハンに言葉が出ない2人。
帰りの電車で嗚咽が止まらないほど咽び泣くミンジョン。
周りの人から「うるさい」「うざったい」と文句を言われ、ギョンロクは「泣くな」と怒鳴ってしまった。
大学生活を謳歌しているギョンロク。
ミンジョンは、地下から抜け出し、広い世界に羽ばたいたギョンロクに引け目を感じ、ある日、ギョンロクの前から消えてしまった。
しばらくして、ミンジョンから手紙が届いく。
ヨハンの自殺未遂を境に、再び闇について考えるようになってしまった。
心の奥底に闇を抱えた者は、やっぱり抜け出せない。
幼い頃から無視され続け、心を閉ざして隠れるほうが楽で、1人きりで暗闇にこもり、息を潜めて生きてきた。
そんな中でギョンロクと出会い、闇の底からすくい上げてくれた。
人を好きになるのは案外シンプルことだと知り、幸せで大切な時間を過ごせた。
でも時を重ねるうちに、心に雲が垂れ込めた。
耐え難い焦燥感に襲われ、ふと気付いた。
寝ても冷めてもギョンロクを思い、日々恋しがることしかしていなかったと。
それが、ギョンロクの元を離れた理由だと。
逃げたのではなく、ギョンロクとの瞬間を永遠に留めたいのだと綴られていた。
ギョンロクは休学し、ユートピア百貨店の地下駐車場バイトに復帰した。
ミンジョンもヨハンもいない地下。
ギョンロクはセラと体の関係をもった。
ホテルの帰り、以前、ミンジョンと行ったレコード店へ。
ミンジョンと一緒に聞いたレコードを、今度はセラと聴く。
この曲はミンジョンがカラオケで歌ってくれた曲だ。
ギョンロクの脳内では、ミンジョンの声で再生され、ギョンロクは自然と涙がこぼれ落ちる。
かつて、「別れが悲しい理由は、失った辛さではなく、共にしている間、生きている実感があったからだ。そしてそれをもう実感することができない。」と、ヨハンが教えてくれた。
ギョンロクは今、それを実感している。
ギョンロクは入院するヨハンの元へ。
あいかわらず抜け殻のようなヨハン。
笑いも泣きもしてくれない。
セラは、明らかにミンジョンに未練が残っているギョンロクのために、ミンジョンの住所を手に入れてくれた。
ギョンロクは手紙を書いた。
「12月24日に午後5時 チャンジャウォンのバス停で待っている。
会いたくなければ来なくてもいい。
でも僕は会いたい、恋しい。」
と。
ギョンロクは、以前、ミンジョンが編んでくれたセーターと同じブルーのマフラーを編み、手紙と一緒に送った。
待ち合わせ場所までバスで向かう途中、道路で事故があったようで、渋滞になっていた。
このままでは間に合わないため、ギョンロクは雪降る中バスを降り、走った。
待ち合わせ時間を過ぎてしまったが、バス停にミジョンが待っていてくれた。
2人はレストランで食事をした後、店内に誰もいないのでダンスをした。
ギョンロクはバスに乗って帰ろうとしたが、途中で下りて、ミジョンの元へ走る。
「また会えるんだよな?気持ちは分かるけど離れたくない!絶対別れない!愛してるから!次は来週の大晦日、いつもの店で会おう!デートするんだ!音楽を聴こう!除夜の鐘も!必ず会おうな。」と叫ぶ。
目に涙を浮かべてうなずくミジョン。
2人は雪が降りしきる中でキスをした。
ギョンロク、ミジョンの顔に明るい光が差した頃、入院中のヨハンの顔にも光が差し、笑顔が戻っていた。
そして大晦日。
ミジョンはケンタッキーホープの前でギョンロクを待つ。
しかしギョンロクは現れなかった。
5年後
ミジョンが大好きだったラジオ番組の収録スタジオに、デヴィッド・ボウイのTシャツを着たヨハンがいる。
書き終えた著書「亡き王女のためのパヴァーヌ」の宣伝をしている。
「数年前に出会った友達の愛の形を紡ぎました。人生に行き詰まっていた主人公の私は、当時生きる価値を見いだせず、苛立ちと問いを抱えていました。2人の友と過ごして、希望を持つに至った私の成長物語です。」と語った。
どうやらバンド活動もしているようだ。
ミジョンは幼稚園の先生となっていた。
子どもたちにピアノを弾き、楽しそうに歌を歌う。
同僚たちと一緒に、他愛ない話をしながら笑顔でお弁当を食べる。
自宅にヨハンから本が届いた。
ところどころ笑いながら読み進めるミジョン。
ミジョンはため息をつき、あの日、ギョンロクにプレゼントするはずだったレコードを手に取った。
ギョンロクは、12月24日にミンジョンと会った後、バスで事故に遭い亡くなってしまったのだ。
ミンジョンはヨハンの本の最後にある
「すべての愛は幻想だ。永遠だという幻想。だが、どんな形であれ理解し合うこと。要するに愛とは、想像することなのだ。その先の再会を夢見ながら生き続けるもの。」
という一節を読み、叶うことのないギョンロクとの”その先”を想像する。
”大怪我をしたギョンロクは、長いリハビリ期間を経てなんとか歩けるようになった。
しかし、記憶の一部を失い、元の生活に戻ることはできなかった。
記憶はないが、吸い寄せられるように足を踏み入れた演奏会。
そこでギョンロクはミジョンと再会した。
2人はその後、一緒にアイスランドでオーロラを見て愛を確かめ合ったとさ。”
ミジョンはヨハンに電話をかけ、「結末がハッピーエンドすぎる」と笑った。
ヨハンは「そうしたかった。インディアンはしばし馬を下りるんだよな?ゆっくり歩く魂を待つために。きっと、ギョンロクも馬を下りたんだ。どこかで俺たちを待ってるんだ。」と答える。
ミジョンは、ケンタッキーホープで開かれるヨハンのライブにやって来て、リズムに合わせて体を揺らす。
生きていけるのはギョンロクが照らしてくれた光のおかげ。
ミジョン「また会えるよね?それまでどうか元気でいてください。」
<終>

